「...と、いうわけで、今回の補導対象者は、テレパスらしい。」
「テレパスというと、あの、よくバスケットとかでやってる...」
「それは、“手でパス”。テレパスというのは、他人の考えていることがわかるという、読心能力のことだよ、紙麻君。」
「あっ、はい、そうでした、そうでした。」
「...とにかく、今回の君の任務は、その男が、間違いなくテレパスである確証を得ることだ。そうそう、これを忘れずにな。」
 部長が取り出したのは、テレホンカードに似た、一枚のカードであった。
「あっ、“カンチョーキ”ですね。」
「...変な略称は止めるように。いや、これは“簡易超能力実践キット”ではない。君の様な見習い向けに新たに開発した、“サイオニクス追跡・補導実践キット”という」
「省略すると“サツジンキ”。」
「...だから省略せんでいいと言うに。このカードは、どんな種類の超能力も使用可能だが、使えるのは一回きりだ。」
「えー、たったの一回ですかぁ...けち。」
「何か言ったかね?」
「いいえ、空耳ですわ。」
「君はどうも超能力を無駄に使用する傾向があるからね。肝心なときに使えないなどという事のないよう、注意したまえ。」
「了解しましたぁ。」
「敬礼はいいよ、紙麻君。」

「さて、と。どうやって確証を得たらよろしいのでしょう?」
 次子は悩んでいた。本部の調査で、すでにターゲットは絞られていたが、何しろ相手は、こちらの考えていることが解ってしまうのだ。下手に質問などしたら、すぐにこちらの正体がばれてしまい、絶対しらを切り通される事は、目に見えている。
「やっぱり、祖師名さんに相談するべきかしら? でもあまり頼ってばかりいると、嫌われるかも...」
 祖師名さんに嫌われる...そんな想像をしただけで、目の縁に涙が滲んでくる。その時、ふと名案が浮かんだ。
 要は、相手がこちらの考えを読もうとしていることを確認できれば良いのだ。相手の意表をついた科白で、動揺させ、思わずこちらの本心を読もうという様に仕向け、まさにその瞬間の思考を“サツジンキ”を使ったテレパスで、逆に読んでしまえばよい。早速、準備に掛かることにした。

 いよいよ、ターゲットと対決する時が来た。相手は何も知らずにこちらに向かって歩いてくる。物陰に隠れていた次子は、突然その男の前に立ちはだかると叫んだ。
「がちょーん。」
 ポーズ付きで。

「いまですわ!」
 露骨に動揺している相手に向かって、次子は“サツジンキ”を振りかざし、その男の思考を読み取る!
 それは...
「..へ、変質者?」

「ふえーん。私、変質者じゃないもん」
 泣きながら祖師名のマンションに向かって走っていく、次子であった。

 ...がんばれ、紙麻次子。





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