第42回   猿人権 1996.10.30


 さて、今日は「人権」の話です。
 人権とは、「すべての人間が生まれつき持つ権利」だそうです。なるほど。
 でも、ちょっと待ってください。この「人間」という言葉が、きちんと定義されていないようですね。え? そんなのは分かり切ったことだって? 実は、そうでもないのです。なぜかと言うと‥‥。

 私たち、すなわち、ホモ・サピエンスの祖先はアウストラロピテクス亜科であり、そこにはいくつもの種が含まれていた。しかし、それらは過去のものであり、現在生き残っているのはホモ・サピエンスだけである。
 確かにそのとおりだが、必然的にそうなったわけではない。アウストラロピテクス亜科のうちの、ひとつの個体群がホモ・ハビリスやホモ・エレクトスを経てホモ・サピエンスになったが、他のいくつかの種も生き残っていた。特に、アウストラロピテクス・ロブストスという一種が死に絶えたのはせいぜい100万年前のことであり、彼らはアフリカでホモ・エレクトスと一緒に暮らしていたのだ。
 ロブストスが消えた理由はわかっていない。私たちに滅ぼされたのか? それとも自滅したのか? いずれにせよ、ロブストスが絶滅してくれたことは、私たちにとっては幸運であった。なぜなら、もしロブストスが今日まで生き残っていたら、私たちはあらゆる倫理的なジレンマを抱え込んでいたであろうから。

 彼らは「人間」の一種でありながら、明らかに知能は私たちより低い。頭蓋骨の容積は私たちの三分の一しかない。
 私たちは、彼らをどう扱うべきだろう? 動物園を作るか? 保護区に入れるか? あるいは、虐殺に手を染めることになるのか? それとも、人権を与え、「人間」として扱うべきだろうか?

 それは仮定の話だ、というかも知れない。しかし、妄想をたくましくして、万が一、彼らが生き残っていたらどうする?
 ヒマラヤの雪男、北アメリカのビッグフット、中国の野人、広島のヒバゴン(古い)、こういった「未確認動物」たちが、実は、ホモ・サピエンスとは異なる「人間」だったら‥‥。
 ある日、ビッグフットが大挙してホワイトハウスに押し掛け、「我々にも市民権を!」とシュプレヒコールをあげる、あるいは、天安門広場で軍隊と野人が戦いを繰り広げる‥‥。

 やはり、一刻も早く、「人間」の定義を明確にすべきだろう。雪男が山からおりてくる前に。


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