第54回   人面岩の秘密 1996.11.11


 邪馬台国の所在地はどこだったのか、という問題は、まだ決着していません。何しろ資料が『魏志倭人伝』くらいしかないわけで、卑弥呼がもらったという「親魏倭王」の金印でも発見されない限り、決着はつかないでしょう。
 邪馬台国の所在地については、オーソドックスな説からトンデモない説まで、百花繚乱状態です。もっとも有力なのは九州説と畿内説ですが、そのほかに徳島説、淡路島説、佐渡島説、琉球説、ハワイ説、エジプト説と、まさになんでもあり。しかし、エジプトまで行ってしまうとは‥‥。これを超えようとしたら、あとは火星にでも持って行くしかないでしょう。「邪馬台国=火星説」、誰か書いてくれないかな。

 というわけで今日は‥‥いや、邪馬台国の話じゃなくて、火星の話でした。マクラが遠回りすぎたか。

 さて、火星と言えばもっとも有名なのは人面岩である。
 火星の表面で人面岩が発見されたのは、今からちょうど20年前のことだ。火星探査機バイキング1号が、1976年7月25日に、高度1873キロの上空から撮影した写真の中に、どう見ても人の顔としか思えないような巨岩が写っていた。大きさは、幅が2.3キロ、長さが2.6キロ程度である。
 超常現象研究家たちは当然の事ながら「これは火星の超古代遺跡だ」と言い張り、よく見ると目の中に瞳孔まであり涙が流れた跡もあるだとか、人面岩の緯度は自然対数eを円周率πで割った値のアークタンジェント(←まわりくどいぞ!)に正確に一致しているだとか、あの顔はエジプトのスフィンクスにそっくりだとか、近くには「都市」や「広場」や「ピラミッド」まであるとか、いろいろな事を言っている。
 実際はたぶん、「自然の造形と光の組み合わせが偶然に産み出したもの」というあたりが正解だろうが、それでも、本当に超古代遺跡である可能性はゼロではないだろう。その可能性に賭けよう。

 ところで、超常現象研究家たちは、よく「NASAはUFO情報を隠蔽している」と主張しているが、何のことはない、この人面岩の写真はNASAのホームページにもちゃんと載っているのだ。ここである。火星に対するFAQのトップが、「人面岩って本当にあるんですか?」なんだから、まあ当然かもしれないが。

 人面岩は非常に有名であるが、実は、火星表面にある「顔」は人面岩だけではないのだ。一般にはほとんど知られていないが、火星の表面には、昔流行った「ニコチャンマーク」にそっくりな図形が見つかっている。この写真はここで見ることができる。
 しかし、人面岩の方は「火星の超古代遺跡だ」ともてはやされるのに、ニコチャンマークの方はほとんど無視されている。これは一体なぜだろう。ニコチャンだからといって差別してはいけない。それともこれは、やはり、真実を隠蔽しようとする超常現象研究家の陰謀か?

 とにかく、人面岩やニコチャン岩の謎を解くには、もう一度写真を撮るしかないだろう。
 学者は「貴重な火星探査の時間をそんなくだらないものに割くのは言語道断」と怒るかもしれないが、そもそも一般大衆は、人面岩には興味はあっても、火星の地質構造の生成過程がどうのこうのといったことには興味はないのだ。税金の力で宇宙に飛び立つ以上は、税金の担い手である私たち一般市民の知的満足を満たすのは当然のことだ。‥‥あっ、「私たち」って、この場合私は含まれてないか。

 NASAはついこの間、久しぶりに火星探査機を打ち上げた。そして、火星の生物に関連して開いた8月7日の記者会見では、「人面岩の写真をもう一度撮影してくる」と約束してくれたのだ! さすがはNASA、日本の役所とはひと味違う。(でも、ニコチャン岩の方も忘れないでね)

 この探査機が火星に到着するのは来年の9月である。人面岩に再び巡り会える日を、楽しみに待とうではないか。
 そして、もしかしたら人面岩の近くから「親魏倭王」の金印も発見されるかもしれない。(←それがオチか!)


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