第58回   犬・猿・雉 1996.11.15


 今日は桃太郎の話である。さすがにこれを知らない人はいないと思うのでストーリーの説明は省略する。
 この話の中で、桃太郎の仲間になるのは犬・猿・雉の三匹(正確には二匹と一羽)である。
 なぜ、犬と猿と雉なのか、私はずっと悩んできた。いや、本当のことを言えばそれほど悩んではいなかったが、ここは話の都合上悩んでいたことにしておく。
 なぜ悩んでいたかというと、組み合わせに納得がいかなかったからである。犬と猿は、昔から仲が悪い。なぜなら、犬は煙草を吸わないのに猿はヘビースモーカーだからだ。すなわち、嫌煙の仲である。
 ‥‥あああ、ダメだ。またしてもダジャレを出してしまった。今日はマジメな話なので、ダジャレは禁止である。

 話を元に戻す。
 犬・猿・雉には別に必然性などないのだから、他の動物でもよかったのではないか? と思って考えてみたのだが‥‥。

 猿・豚・河童だと天竺までお経を取りに行くことになってしまう。
 猪・鹿・蝶だと花札をすることになってしまう。
 蛇・カエル・ナメクジだと三すくみで鬼退治どころではない。
 ブー・フー・ウーだと敵は鬼ではなく狼である。
 じゃじゃ丸・ぴっころ・ぽろりだとにこにこぷんである。
 シンドブック・モチャー・ピピルだと桃は桃でもミンキー・モモである。
 キャビア・フォアグラ・トリュフだと鬼に食べられて終わりである。
 イリオモテヤマネコ・ヤンバルクイナ・セマルハコガメだと特別天然記念物なので危険な任務につかせるわけにはいかない。
 トラ・トラ・トラだと太平洋戦争が始まってしまう。

 どこがマジメな話なのだ、と思うかもしれないが、これからマジメになるのである。
 とにかく、このように、どの組み合わせも不適当だ。すると、消去法でいけば犬・猿・雉しかないわけだが、そんな消極的な理由ではなく、もっと積極的な理由が欲しい。そう思って理由を探していたら、意外なところから見つかった。
 鬼門とは北東、すなわち丑寅(うしとら)の方角である、ということは以前にも書いた。そして、鬼は丑寅の方角を象徴しているので、牛のような角を持ち、虎の皮のふんどしをしているのだ、ということも。
 だったら、鬼を退治する者は、南西の方角にいるはずだ。そこで、下図を見ていただきたい。

            北
           子
         亥   丑
       戌       寅

    西 酉          卯 東
       申       辰
         未   巳
           午

            南

 鬼門のほぼ反対側に、申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)が並んでいるではないか。
 謎はすべてとけた。桃太郎の仲間が犬・猿・雉なのは、そういう理由だったのだ。

 ‥‥いや、もちろん、あなたの言いたいことはわかっている。
 「南西の方角なら未(ひつじ)が入ってないのはなぜか」と言いたいのであろう。そういう細かいことは気にしてはいけない。人間、寛容が肝要である。え? ダメ? しかたがない、では説明しよう。

 羊は、桃太郎の一行にちゃんと入っていたのだ。桃太郎のかぶっていた頭巾は、羊の皮でできていたのである。
 なんだか苦肉の策のようだが、これでいいのだ。昔から言うだろう、羊頭苦肉と。

 結局ダジャレを使ってしまった。けっこう説得力のある説だったのに、信憑性が一気になくなってしまったのは残念である。


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