第64回   気のせいかもしれない 1996.11.21


 さて、今日のネタは「気功」である。みんなで気功の話を聞こう。

   気功というのは、手から「気」と呼ばれる一種のエネルギーのようなものを発して他人の病気を治したりする力のことである。わかりやすい例では、『ドラゴンボール』で孫悟空が使う「かめはめ波」が有名である。ちょっと違うか。

 気功には、内気功と外気功の二種類がある。内気功は、気の力により「自分の」体を治すもので、外気功は「他人の」体を治すものだ。
 内気功は、要するに太極拳のような一種の体操であり、健康法としてはそれなりに効果があるはずだ。幸か不幸か。いや、もちろん幸の方だが。
 しかし、問題は外気功である。これにはやはり、超能力のようないかがわしさがどうしてもつきまとう。

 一般にはあまり知られていないが、外気功については、群馬大学で科学的な研究がおこなわれている。この研究をおこなったのは、医学部神経精神薬理学の丸山悠司教授だ。やはり、教授の胸中は「今日中に終わらせたい」だったのだろうか。

 まず、気功師の協力を得て、気功の術前・術中・術後の被療者(気功を受けた人)の血液成分の変化を検査したが、ほとんど変化がなかったという。そこで、生理学的・心理学的なテストをおこなってみると、気功にかかっているときの状態は、レム睡眠に近いものだ、ということがわかった。レム睡眠とは、うとうととして夢を見ているときのような状態のことで、妖怪人間が泳いでいるわけではない。それではベムスイミングである。
 さらに、シャーレの中の大腸菌に気をかけて殺す、という実験もおこなわれたが、これも効果がなかったようで残念である。大腸菌だけに、もっと長時間残業をしてでも実験していたらよかったのかもしれない。大超勤である。とにかく、気功はO-157対策の切り札にはならなかったようだ。
 そこで教授らは、気功というのは実は催眠術に近いのではないかと考え、素人を気功師に仕立てて模擬実験をおこなうことにした。貴公子に仕立てるのは難しいが、気功師に仕立てるのは簡単である。たまたまその場にいた医療機器会社の社長が気功師に仕立てられた。
 で、実験の結果はというと、やはり、相手が気功師だと思わされていると、素人が気功の真似をしただけでもかなり効果があったようだ。それどころか、この社長さんにニセ気功をかけられた学生などは、前の本物の気功師よりもすごい、と驚いていたという。

 面白いのは、この社長さん自身もこの結果に驚き、「もしかしたら自分は超能力者だったのではないか」と言い出したことだ。そう、秘められた超能力が、何かのきっかけで顕在化する、というのはよく聞く話だ。材木になる、という話は聞いたことがないが、それは建材化である。

 この、超能力に目覚めた社長さんのその後はわからない。
 今日もどこかで、頭痛や肩こりなどを治しているのだろうか。それとも、世界征服をたくらむ悪の秘密結社と人知れず戦い続けているのだろうか。
 いや、案外、同じように超能力に目覚めた社長を集めて同盟を組んでいるかもしれない。シャッチョウ同盟である。


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