第89回   墓参り 1996.12.22


 メリーが死んでから一月が過ぎた。

 私たちはメリーの墓参りに行くことにしたのだが、どうせならきもだめしも兼ねて、真夜中に行こう、という話になった。まったく、とんでもない友人たちである。私もそのうちの一人だが。

 そしてその日、草木も眠る丑三つ時に、私たちは墓地の入口に集合した。まわりを森に囲まれた墓地である。人家からも遠く、怖いほど静まりかえっている。
「さて、ぼちぼち行こうか」
 友人の一人が声をかけた。
 みんなは歩き始めたが、私の足は動かなかった。恥をさらすようだが、私は非常に恐がりなのである。緊張して、喉が乾いていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 私はみんなを呼び止めると、近くにあった自動販売機でジュースでも買って飲むことにした。財布から硬貨を取り出したが、恐怖のために手が震え、落としてしまった。私はあわててしゃがみ込むと、硬貨を探しはじめた。暗いためか、なかなか見つからない。やっと、自動販売機の下に転がり込んでいた百円玉を見つけた。ここにあったか百円め。
 私は、やっとジュースを買うことができた。しかし、商品名をよく確かめずに買ったためか、出てきたのは『うしみつレモン』という不吉な名前のジュースだった。いくら墓地のそばだからといっても、こんな名前のジュースを入れておくことはないだろうに。

 そんなトラブルがあったために少し遅れてしまったが、私たちはいよいよ、墓地へと足を踏み入れた。懐中電灯で足元を確かめながら、メリーの墓へと進んでいく。私は、おそるおそるみんなについていった。
 そのとき。前方で、何かが動いた。懐中電灯を向けると、全身を白い服で包まれた影が立っている。幽霊か。妖怪か。恐怖のために私の心臓の鼓動は高まった。
 その影が、ゆっくりとこちらを振り向いた。‥‥オバケのQ太郎だ。やはり、オバケが出たのだ。
 しかし、心配はいらない。こんなこともあろうかと、犬を連れてきたのだ。私たちは、犬をQ太郎にけしかけた。
 てっきり逃げるかと思ったのだが、Q太郎は強気だった。犬を蹴飛ばすと、私たちに向かって叫んだのだ。
「てやんでえ、ういーー、犬が怖くてオバケができるかい!」
 よく見ると、手に一升びんを持っている。こんなに酒癖が悪いとは知らなかった。酒乱Qである。

 クダを巻いているQ太郎は放っておいて、私たちはメリーの墓に到着した。花を供え、線香を立てる。墓に向かって手を合わせていると、友人の一人が私の背後を指さして叫んだ。
「た、たみお! お前の後ろに‥‥」
 私はあわてて後ろを振り返った。何もない。
「どうしたんだ? 一体」
「い、いや、今お前の後ろに、メリーの姿が見えたんだ」
 ‥‥なに? メリーの幽霊が出たというのか?
 また友人の一人が私の方を見て悲鳴をあげた。振り返るが、やはり何も見えない。
 さらに一人が私の背後を指さす。これで三度目だ。振り返ってみても、メリーの姿はない。また消えてしまったようである。三度バックに〜浮かんで〜消える〜、というところか。

 しばらく沈黙が続いた後、友人の一人がぽつんと言った。
「‥‥たみお。メリーはね、ずっとあなたのことが好きだったのよ」
 それは初耳だった。
 しかし、それならなぜ、メリーは私の前に姿をあらわさないのだろう。メリーは、私たちに何を告げようとしているのか。
 いずれにせよ、このままメリーの魂を迷わせておくわけにはいけない。私は、メリーの菩提を弔うために、出家することにした。出家先はもちろん、高野山金剛峰寺だ。青年は高野をめざす。


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