第106回   パチンコに行く 1997.1.20


 うーっ、頭が痛い。熱もある。風邪をひいたようだ。
 しかし、そんなことは言ってられないのだ。今日は近所のパチンコ屋の開店日である。開店日には、どの台も開放台になるはずだ。これは絶対に行かねばなるまい。風邪にもめげず、家を出た。

 しまった。ボーッとしていたため、時計を忘れてきた。パチンコ屋の開店は十時のはずだが、いま何時かわからない。その辺を歩いている人に聞いてみよう。
「何時?」
「時針で知れ」
 いや、だから、時針も分針もないんだってば。病身ならここにあるが。
 仕方ない、別の人に聞いてみよう。
「時? わかんねーナリ」
 そうナリか。失礼したナリ。

 などと言ってるうちにパチンコ屋についた。よかった。まだ開店前のようだ。入口では、すでに大勢の人が一列になって待っている。その列の最後尾につく。
 やがて十時になったらしく、入口が開く。列が動き出した。私が店内に入ったとたん、いきなりファンファーレが響きわたり、頭の上でくす玉が割れた。店員が口々に叫ぶ。
「あなたが百人目の来店者です!」
「おめでとうございます!」
「ここであんたが百人目!」
 呆然としていると、店長らしき人物が出てきて、私を奥へ導く。
 ちょ、ちょっと待ってくれ。私は、今日は絶対出るはずだと思ってパチンコをしに来たのだ。ほら、すでにほとんどの台はうまってるじゃないか。軍艦マーチも流れている。
「守るも攻めるも苦労がねぇのう〜」
 苦労ありすぎだっつーの。どうせ百人目の記念品なんて、ロクでもないものに決まっている。それより、パチンコをやらせてくれっ。

 という私の願いもむなしく、とうとう応接室のようなところへ連れてこられた。
「では、百人目のご来店を記念して、豪華な粗品を差し上げます!」
 などと、店長が矛盾したことを言うと、店員がなにやら大きなものをかかえて部屋に入ってきた。よく見ると‥‥アルミサッシの窓だ。こんなものもらってどうしろというのだ。やっぱり、イヤな予感が当たった。
 私は言った。
「それは‥‥アルミサッシですね?」
 店員がアルミサッシの窓を私にわたしながら言った。
「そのとおり! いやあ、察しがいいですねえ」
 ‥‥ダメだ。その一言で致命的なダメージを受けた。風邪が悪化したらしく、意識がもうろうとしてくる。そう、ウィンドウをわたす、というやつだ。


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