第226回   日本で二番  1998.12.7




 二番手は不幸である。
 一番は常に注目され、ことあるごとに引き合いに出されるというのに、二番手の知名度は著しく低い。冷遇されているのだ。
 たとえば。
 日本一高い山は富士山だが、日本で二番目に高い山は誰も知らない。
 日本一広い湖は琵琶湖だが、日本で二番目に広い湖は誰も知らない。
 日本一長い川は信濃川だが、日本で二番目に長い川は誰も知らない。
 日本一低い山は天保山だが、日本で二番目に低い山は誰も知らない。
 日本一高い塔は通天閣だが、日本で二番目に高い塔は誰も知らない。
 日本一狭い府は大阪府だが、日本で二番目に狭い府は誰も知らない。
 日本一長い漫画は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』だが、日本で二番目に長い漫画は誰も知らない。
 日本一長い名前の駅は『南阿蘇水の生まれる里白水高原駅』だが、日本で二番目に長い名前の駅は誰も知らない。
 日本一の無責任男は植木等だが、日本で二番目に無責任な男は誰も知らない。
 日本一の長寿は……おっと、これは私も知らない。日本一が知られていないのだから、当然、二番はもっと知られていないだろう。なぜ知られていないかというと、ころころ入れ替わるからだ。山だの川だの湖だのの順位はよほどの天変地異でもないかぎり変わることはないが、人間は簡単に入れ替わる。まあ、「長寿日本一」が入れ替わったということはニュースになるからわかるのだが、その時に「二番は誰か」ということはまず放送されない。ちゃんと放送してくれたらいいのに。たとえば、こんなふうに。
「……本日未明、長寿日本一の上田タミさんが亡くなりました。これにより、長寿日本一の栄冠は茨城県の新屋タケさんの手に移りました。なお、新屋タケさんに万一のことがあった場合は、現在二番手の中村カツさんが日本一となります。カツさん、待ち遠しいですね」

 話がそれた。日本で二番の話に戻ろう。
 ここで知らない知らないなどと言っていても始まらないので、ちょっと調べてみることにした。まずは、日本で二番目の山である。こういう時に役に立つのがネット上の検索エンジンだ。たちどころに答が出る。
 で、調査の結果、山の高さについては有名なことわざがあることがわかった。このことわざによると、一番が富士山、二番が鷹山、三番がなすび山である。しかし、鷹山とかなすび山とかいう山はあまり聞いたことがない。どこにあるのだろうか。
 待て。ことわざは一つではなかった。別のことわざによると、一番は姫山、二番は太郎山だという。ううむ、信用できるのだろうか、これは。
 待て待て。もう一つある。さらに別のことわざによると、一番はカステラ山、二番は電話山だという。ここまでくるとさすがに信じがたい。カステラ山など、日本にある山だとは思えない名前ではないか。ネット上には、このように間違った情報も堂々と公開されているので注意が必要である。

 しかしまあ、ネット上で検索すると予想もしなかった情報が手に入ることもある。いわゆる「外道が釣れる」というやつだが、今回は「日本一面白いジョーク」というものがひっかかってきた。こういうジョークだ。

「大阪城を建てたのは誰?」
「豊臣秀吉!」
「違うよ、大工さんだよ」
「ぎゃふん」

 ……そうなのか? 本当にこれが日本一面白いジョークなのか? どうも納得できない。
 だいたい、なぜ大阪城なのだ。こんなもの、江戸城でも姫路城でも名古屋城でも人狼城でもたけし城でもいいはずだ。それらの城と比較して、なぜ大阪城が「日本一面白い」のか、論理的に説明できるのだろうか? できまい。どんな城を持ってきても、面白さは同じはずだ。ためしにちょっとやってみよう。

「大阪城を建てたのは誰?」
「大工さん」

「江戸城を建てたのは誰?」
「でぇくさん」

「名古屋城を建てたのは誰?」
「でゃーくさん」

 ……むっ、これはひょっとして、大阪城が一番つまらないのでは?
 しかし、名古屋人は本当に「でゃーくさん」と言っているのだろうか。「俺のうしろに立ったらいかんがや」などと言ったりしてるのだろうか。それは、でゃーく東郷である。名古屋の大工は世襲制なのだろうか。家業を継ぐのがいやで逃げ出したりしたら連れ戻されるのだろうか。「でゃーくに生まれし者はでゃーくに帰れ」である。恐ろしい土地だ。ぶるぶる。

 また話がそれた。日本で二番の話に戻ろう。
 気を取り直して、別の検索エンジンを使ってみたら、また別のページにたどりついた。そこを読むと、「日本で二番目に高い山は富士山」と書いてある。ううむ、これはどういうことだ。では、一番高い山は何だというのだ。
 そのページには、「日本で一番高い山は玉山(3952m)」と書いてある。確かに3952mだったら富士山より高いが、その山はどこにあるのだ? ……「所在地:台湾島」。
 あわててそのページの下の方を見ると、小さく「最終更新日:1944年3月20日」と書いてあった。なんだ、そんなに古い情報だったのか。それにしても無精な作者だな、五十年以上も放ったらかしか。ちゃんと更新しろよ。




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