第275回   かくて恐竜は絶滅した  1999.9.5





 かつては地球上を我が物顔でのし歩いていた恐竜たちも、今では絶滅してしまった。まあ、海中で眠っていた生き残りが水爆実験で目覚めて暴れ出すようなこともたまにはあるが、絶滅してしまったと言ってもかまわないだろう。
 では、恐竜は何が原因で絶滅してしまったのだろうか。子供のころに図鑑なんかで読んだような気もするのだが、詳しいことは忘れてしまったので、ちょっと調べてみた。すると、驚いたことに説が山ほど出てくる。どうやら、専門家の間でも恐竜絶滅の原因については意見が統一されていないようだ。
 しかし、探した文献が悪かったのか、説の名前だけで詳しい内容が記載されていない。ううむ、これでは一体どういう説なのかわからないではないか。仕方ないから、どういう説なのか推理してみよう。


『隕石衝突説』
 そう、いくら恐竜といえども、隕石の直撃を受けてはひとたまりもないだろう。大きな隕石なら当然だし、米粒大の小さな隕石でも脳などの急所を直撃されれば命に関わる。しかし、恐竜が何頭いたのかは知らないが、絶滅させるほど多量の隕石が降ってくるものだろうか。人間が隕石に直撃されて死亡したなどというニュースは、年に何例も聞かないというのに。今ひとつ信憑性に欠ける説である。


『火山噴火説』
 そう、いくら恐竜といえども、溶岩の直撃を受けてはひとたまりもないだろう。しかし、恐竜が何頭いたのかは知らないが、絶滅させるほど多量の……いや、火山の噴火で町が一つ滅びたなどという話はたまに耳にする。すると、隕石衝突説よりは信憑性があるのだろうか。


『伝染病説』
 かつて十七世紀のヨーロッパではペストのために人口の四分の一が死亡した。四分の一というのはちょっと多すぎるような気もするが、ゲーテも書いているので確かな話だろう。その他コレラや天然痘やデル赤斑病やMM-88菌の猛威により人類は何度も絶滅の危機に直面している。伝染病による絶滅も、あり得ない話ではない。


『マントル深層異変説』
 これは恐ろしい。何しろ、マントルの深層で異変が起こるのだ。どれくらい恐ろしいかというと、恐竜が絶滅してもおかしくないくらいだ。とにかく恐ろしいのである。


『哺乳類卵泥棒説』
 哺乳類の卵を盗んで食べるような悪い恐竜は、絶滅しても仕方ないだろう。


『便秘説』
 運動もせず水も飲まず野菜も食べずコーラックも飲まなかったのだろう。不摂生は万病の元である。


『大洪水説』
 ノアの箱船の大きさにも限界がある。恐竜のような巨体を乗せるだけの余裕がなかったのだろう。不運なことである。


『花に追われた恐竜説』
 悲鳴をあげて逃げ惑う恐竜たちを追い回す巨大な食虫、いや食竜植物の群れ……などというものを想像してしまったのだが、それはさすがに非現実的だろう。ならばこの説はどういうことか。恐竜たちがいつも水を飲んでいる井戸があり、その釣瓶に朝顔が巻きついてしまった。朝顔に釣瓶を取られた恐竜はもらい水もできずに絶滅してしまった、ということだろうか。


『包茎性勃起不全説』
 そうか、包茎だと絶滅するのか。……い、いや、私は違うぞ。違うったら違う。


『騎馬民族征服説』
 ネヴァダ州の山中で発見された、恐竜の足跡の隣の靴跡の化石。メキシコはアカンバロで発見された多量の恐竜土偶。テキサス州の四億年前の地層から発見された鉄製のハンマー。人間が恐竜と共存していたという証拠は枚挙にいとまがない。恐竜も、他の多くの絶滅動物と同じく人間に滅ぼされてしまったのだろうか。げに恐ろしきは人間である。


『ヒトラー生存説』
 ヒトラーとかけて恐竜と解く。その心は、どちらも南米のジャングルの奥地で生きているのを見たという人がいます。


『阪神優勝説』
 いくら阪神ファンといえども、恐竜を道頓堀に投げ込みはしないだろう。


 実に多くの説があるものだ。信憑性のあるものからアヤしげなものまでさまざまだが、どうも、どの説も今ひとつ説得力に欠ける。本当に恐竜は、こんな理由で絶滅したのだろうか。これらの説の中に正解があるのだろうか。もしかすると、「恐竜はこれが原因で絶滅した」という唯一の正解などないのかもしれない。恐竜が絶滅したのは確かだが、その原因は個々の恐竜によって違うのではないだろうか。ちょうど、交通事故のように。
 交通事故の原因は、スピードの出し過ぎや居眠り運転、飲酒運転や信号無視、自動車の欠陥や違法改造、さらには事故を装った殺人や宇宙人による誘拐までさまざまだ。唯一無二の「交通事故の原因」などというものは存在しないのである。これと同じように、個々の恐竜はそれぞれ違った原因で絶滅したのではなかろうか。うむ、自分で言うのもなんだが、なかなか説得力のある説だ。よし、これを『交通事故説』と名付けよう。

 あっしまった、こんな名前を付けたら、そそっかしい者が「そうか、恐竜は交通事故で絶滅したのか」などと思ってしまうではないか。




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