「コズミック」殺人事件

柿木 雅延

 彼女がそれを閉じた瞬間、ベランダのガラス戸は力任せに開けはなたれ、怒りとともに宙に放られた固体。
 地上20メートルから落下してゆく様は店頭に並んでいるときの華やかさなど消え失せ、酷く無残であった。
 彼女は明らかに憤怒していた。
 裏切られた、と思った。
 そして、忠告を聞いておけば良かったと涙交じりに後悔の念を抱いたことも事実だった。
 確かに途中までは彼女は彼女なりにそれを楽しんでいた、いや、「楽しんでいたはず」だった。
 どこかで道を誤ったのか。
 彼女は一度、自分自身に問題があったのかとも考えた。
 しかし、導き出された答えは「否」だった。
 それ自体が問題だったのだ。
 詳しく言ってしまえば「614ページ」までは彼女はそれを大いに楽しんでいたのだ。
 それ以後が良くなかった。
 謎は謎のまま葬ってしまえば良かったと思ったが、それは後の祭りというものである。
 そして彼女はそれを読了した後、怒りのあまりに自分の家(分譲マンションの一室)からそれを放り投げてしまったのだった。
 なだらかな弧を描きながらスローモーションのように、それは誰にも邪魔されることなく引力に従い、落下していった・・・かのように思われた。
 しかし、現実はそうではなかった。
 彼女の手を離れたそれは、彼女の怒りを孕んだまま、ただ一点を目がけて堕ちていった。

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 「マンションからノベルズ落下! 青年を直撃し、死亡」
 翌朝の新聞に小さな記事として掲載されたものである。



(この物語は完全なるフィクションであり、実際のものとは何ら関係のないものと「思われ」ます)

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