第81回   防寒者たち 1996.12.14


 冬も本番を迎えて、かなり寒くなってきたようだ。
 冷え性の人などは、手足の先が冷えて困っているかもしれない。そこで今日は、私の防寒法を紹介しよう。

 冷え性にもっともよく効くのは何か。これについては、子供の頃に祖母から聞いたことがある。
 そんなに昔のことをちゃんと覚えているのか、という心配は無用だ。私の記憶は常に正確である。その上、美しくもあるのだ。記憶正しく美しく。

 祖母の話によると、冷え性に効くのはとうがらしである。とうがらしを、手足の指先に貼り付けるだけでいい。体がどんどん暖まってくる。私も毎年、これを実行している。
 だから皆さんも、冬になったら‥‥いや、もうなっているが、とうがらしを使ってほしい。冬来たりなば、貼るとうがらし、である。

 さらに、着る服にも気を使っている。私は、2着の革ジャンを愛用しているのだ。革ジャンといえば牛革が多いようだが、私の革ジャンはそんなにありふれたものではない。ワシントン条約に抵触するかもしれないので大きな声では言えないのだが、1着はトラの革を使っているのだ。そしてもう1着は、タヌキの革である。トラとタヌキの革ジャンよ。

 防寒法はいろいろとあるが、一番いいのはやはり、日本を離れて南の島にでも行くことだろう。
 実は私も、去年の冬に、イースター島に行って来た。そう、あのモアイ像で有名なイースター島である。
 一緒に行ったのは、友人の矢野元司だ。高校時代からの友人で、現在は銀行に勤めている。
 矢野と二人でイースター島へ行ったのは、つい昨日のことのように思い出されるのに、もう一年もたってしまったのだ。まさに、行員・矢野元司である。

 イースター島は暖かかった。木もあまり生えていない荒涼とした島だが、島のあちこちに立っているモアイ像は壮観である。私はそれまで、モアイ像は海を向いて立っていると思っていたのだが、実は海に背を向けているのだ。やはり、実際に見なければわからないものである。
 私は、その神秘的なモアイ像に、すっかり魅了されてしまった。
 しかし、せっかく寒い日本を脱出してイースター島に来たというのに、矢野は落ち込んでいた。聞けば、失恋した直後だという。矢野は、彼女との楽しい思い出の日々を切々と語った。それを聞いて私も、おもわず涙を流してしまった。モアイ泣き、というやつだ。

 しかし、そんな彼の心をなぐさめてくれる出来事もあった。
 イースター島には、何人かの芸能人が、私たちと同じく寒さから逃れるためにやってきていたようだ。
 そして、そのうちの一人、松坂慶子が、モアイ像を指さしながら歌ってくれたのだ。
「あ〜れモアイ、これモアイ」
 その歌を聞いて、矢野は少しだけ元気が出たようだった。
 しかし、その雰囲気をぶちこわす男がいた。子門真人が出てきて、頼まれもしないのにこんな歌を歌ったのだ。
「モアイにち、モアイにち、僕らは鉄板の〜」
 私たちは、石を投げて子門真人を追い払った。

 他にもいろいろと楽しいことがあったのだが、それは省略するとして、日本へ帰ってきてからの話である。
 モアイ像がすっかり気に入ってしまった私は、自分の家にも置きたくなった。
 しかし、モアイ像はどこで入手したらいいのだろう。ワシントン条約には抵触していないだろうが、日本で売っているのだろうか。とりあえず私は、人形屋に行ってみることにした。
 店の主人にモアイ像があるかどうかたずねたが、主人の答えは冷たかった。残念ながら、入手するルートがない、というのだ。像は問屋がおろさない、というわけである。
 肩を落として店を出る私の背中に、主人が声をかけた。
「モアイにくさま」


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