第199回   逆接話法  1998.8.10





 大阪の夏は暑い。
 しかし、今年は例年に比べるとまだましな方である。だが、私はもともと暑さには弱いのだ。とはいえ、会社では冷房が効きすぎるくらいに効いているので大丈夫である。
 しかしながら、こんなに冷房を効かせているとかえって健康に良くないのではとも思う。かといって、冷房をゆるめて暑さを我慢するのもごめんだ。が、私の同僚の中には健康のことを考えてエアコンの設定温度を勝手に上げてしまうやつもいる。しかし、私はそんな行為を許さず、即座に設定温度を元に戻してやるのだ。だが、その同僚も負けずに再び温度を上げる。でもその温度もすぐに元に戻されるのだ。
 しかし、ずいぶんとむなしい戦いではある。

 いや、私の会社内の攻防など大した問題ではない。にもかかわらず最初に書いたのはなぜかというと、身近な事例から始めた方がわかりやすいと思ったからだ。だがそろそろ本題に入るころかもしれない。
 が、もう一つだけ、エピソードを述べておこう。しかしながらこれも本題ではない。とはいえ、まったく関係ないわけでもないのだ。

 ところが、話は会社のことよりもさらに個人的な事例になる。しかしもちろん書くのだ。だが、かなり詳細な説明が必要だろう。
 と言いつつも字数の関係であまり詳しく書いている余裕はないのだが、私は幼いころ大阪に住んでいた。いや、もちろん今も大阪なのだが、当時は天王寺に家があったのだ。だが、当然ながら、四天王寺の境内に住んでいたわけではない。しかし四天王寺はすぐ近くだった。とは言ってもすぐ隣りというわけでもなく、歩いて五分ほどのところだ。だが、その家も今はない。
 しかし、その家のことは鮮明に記憶に残っている。ところがこの家、かなり不思議な家で、正面から見ると二階建てだった。が、裏から見ると三階建てなのだ。といっても、もちろん、からくり屋敷だとか時空がゆがんでいるわけではなく、坂の途中に建っているだけなのだが。が、初めて来た者は戸惑うかもしれない。
 いや、それはどうでもいい話だ。いや、本当はどうでもいいわけでもないのだが。
 バット、その家の風呂は地下一階だか一階だかわからないところにあった。しかし、総タイル張りでけっこう近代的な風呂だったことは覚えている。だが、その地下一階だか一階だかへ降りる階段は木造で勾配も急で常に薄暗く、あまり気持ちのいいものではなかった。
 とはいえ、風呂に入らないわけにもいかない。でも、一人でその階段を降りていくのは怖く、いつも誰かと一緒に降りたものだ。
 しかしもちろん、その階段に幽霊や狐狸妖怪の類が出たわけではない。でも出てほしかった。いや、これは今だから言えることで、当時は出てほしくなどなかった。だがちょっとは幽霊などを見てみたい気持ちもあったかもしれない。でもやっぱり出てほしくなかった。

 いや、ちょっと長くなりすぎたようだ。しかし述べておく必要のあったことである。でもこれではなかなか本題に入れないではないか。が、これからがいよいよ本題である。
 でももうちょっとだけ、別の話を。
 しかしもう、十分長くなりすぎているぞ。
 が、まだ本題に入るわけにはいかない。
 いや、そろそろ本題に入らないと。
 ところがまだ入れないのだ。
 しかしそろそろ限界だろう。
 にもかかわらず、本題には入れないのである。

 だからこんな趣向はやめろと言ったのに。
 そして私は途方に暮れるのだ。




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