第334回   あなたの町の引越センター  2001.5.6





 私が今の家に住み始めてからそろそろ9年になる。かなり長く住んでいるが、近々引越をする、といった予定は特にない。
 しかしこの広い世間には、引越マニアとか引越オタクとか言った人々も存在するようだ。転勤したとか、転職したとか、隣の住人がヘビメタマニアでうるさいとか、上の住人が汗っかきで天井からぽたぽたとしたたり落ちてくるとか、マンションの13階なのに毎晩窓の外から青白い顔をした髪の長い女がうらめしそうな顔で中をのぞき込んでいるとか、大家が図々しくも毎月家賃を請求してくるとか、警察の捜査の手がついにここまで伸びてきたとか、そういうもっともな理由があるならともかく、特に理由もなく年に数回も引越を繰り返す人がいるのだ。そういう人たちはあちこちの引越業者を利用して、ここの会社はサービスがいいとかここは今ひとつだったとか、そういう情報を沢山持っているのだろう。

 というわけで、特に引越をする予定はないのだが、ネットで検索してみた。かなりの数の引越業者が存在するようだ。テレビでCMをしているようなメジャーな会社から名前を聞いたこともないようなマイナーな会社、さらに「夜逃げの手伝いをします」とか「核物質の運搬請け負います。秘密厳守」などというヤバそうなところまで、色々だ。その中でも特徴的なのは、動物を社名やシンボルマークに使った会社がけっこう多い、ということである。
 メジャーなところでは、クロネコヤマトのヤマト運輸、ペリカンのマークの日本通運、アリさんマークの引越社、「キリンさんが好きです、でもゾウさんの方がもっと好きです」の松本引越センター、あたりであろうか。こういった動物たちが会社のシンボルに使われるのはなぜか、と考えてみると、やはり「荷物を丁寧に運びます」というサービスを象徴するイメージがあるからだろう。子猫を大事に口にくわえて運ぶ親猫、くちばしの袋に食べ物を入れて運ぶペリカン、勤勉にこつこつと餌を運ぶハタラキアリ、力持ちの鼻で重い荷物も楽々運ぶ象、などである。もっとも、アリさんの場合はこっつんこしてしまうとお使いを忘れてしまうかもしれないので注意が必要だが。
 さらに探してみると、マイナーな会社でも動物をシンボルに使ったところがいくつか存在する。カンガルーの引越、かるがも引越便、ダック引越センター、マミー引越センター、などである。こちらもやはり、「荷物を丁寧に運びます」の象徴として動物が使われているようだ。マミー引越センターというのは、私は見たことはないのだが、やはりミイラ男がシンボルマークなのだろうか。それはちょっと怖いぞ、びくびく。
 どうせ妖怪を使うのなら、鬼太郎のマークのゲゲゲ引越センターとかにすればよかったのに。あっ、でも、トラックにねずみ男の絵が描いてあったりしたら、運送中に金目のものがなくなりそうでちょっとイヤかもしれない。

 しかし、これだけあちこちの引越業者が動物をシンボルにしていると、そのうち使える動物がなくなってしまうだろう。やむを得ず、あまりイメージのよくない動物をシンボルにしなければならなかった業者もあるかもしれない。どんな動物がシンボルだったら面白いだろうか。
 たとえば、強くてかっこよさそうな動物だと、ライオンのマーク。む、これは西武系の会社が使っていそうな気がするな。虎のマークのタイガース引越社。こういう会社は、借金ばかりの赤字経営になりそうな気がする。豹のマークのグイン引越センター。チーターのマークの水前寺引越センター。このあたりは、一部のマニアには受けそうな気がする。狼のマークの赤ずきん引越社。ハイエナのマークのハイエナ引越センター。サギのマークの鷺宮引越センター。ううむ、このあたりは、どうもイメージがよくないなあ。まあ、決して狼やハイエナやサギ自身に罪があるわけではないのだが。
 他にどんな動物を使えばいいだろうか。ナマケモノのマークの樹獺引越センター。ううむ、これは引越業者にはもっともふさわしくないような気がする。トラックは超安全運転かもしれないが。猪のマークのウリ坊引越センター。これはなかなかかわいくてよさそうだが、トラックがカーブを曲がれないのだ。って、それじゃあダメやんか。吸血コウモリのマークのドラキュラ引越社。鮫のマークのジョーズ引越社。コウモリダコのマークのクラーケン引越社。人喰いアライグマのマークのラスカル引越センター。ううむ、このあたりの会社も、あまり利用したくならないなあ。
 ならばいっそのこと、架空の動物を使ってはどうだろうか。ペガサスのマークの天馬引越センター。うむ、これはなかなかかっこよくてイメージもいいぞ。ユニコーンのマークのユニコ引越センター。スライムのマークのスラリン引越社。ホイミスライムのマークのホイミン引越社。このあたりもマニアには受けそうだ。鳳凰のマークのフェニックス引越センター。河童のマークの黄桜引越センター。グレイのマークのエリア51引越社。恒星間の引越も楽々です。
 そうそう、忘れてはいけない。フキダラソウモンのマークの相聞引越社というのはどうか。これはまだ、どこの会社にも使われていないはずだ。しかし油断はできないぞ。今のうちに商標登録しておいた方がいいかもしれない。フキダラソウモンのマークが入ったトラックが街を走る姿は、なかなかいいものである。そのうちに女子高生の間では「フキダラソウモンの尻尾に触ると幸せになれる」といったような噂がささやかれることになるかもしれない。
 ううむしかし、フキダラソウモンの尻尾か。どれが尻尾なのだろう?




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